ヴァイオリニスト田久保友妃のブログ「四絃弾き。」

関西を中心に演奏活動をしているヴァイオリニスト。クラシックからジャズ・歌謡曲まで幅広いレパートリーを持つ。2015年からヴァイオリン独奏作品を紹介することと、リクエストタイムなどを設けて“生演奏を身近に”をモットーに「ヴァイオリン独演会」を続けている 。

ヒロシマ

待望のオーケストラ合わせでした。

今回は指揮はニコライ・スーカッチ氏。


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いつもニコニコしていて、みんなが「パパ」と呼ぶ気さくなマエストロなのですが、音楽の作り方は気迫の畳み掛けるような迫力あるアッチェルから、たった一滴の水が滴るきらめきのような繊細なものまで…

一番胸に刺さったマエストロの解釈を覚書しましょう。

まずは今回の一曲。

から、第二楽章。

この曲が大好きな父は「インディジョーンズみたいやな!」と言っていて、私も「確かに〜」と、洞窟に隠された秘宝を探し当てるようにこの楽章を楽しんでいたものです。

今日はどんな宝石が埋まっているんだろう?

それとも金塊かな?

はたまた、骸骨の山かな?

といった具合。

所が…

ニコライパパの解釈は全く違うものでした。

この第二楽章は中間部でヴァイオリンは弱音器を装着した篭った音になり、ハープの刻む4分音符に乗せてそよそよと奏でます。

その時、ニコライパパは

「これはヒロシマの鐘だ」

と語り始めたんです。



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原爆ドーム - GATAG|フリー画像・写真素材集 3.0

ハープはヒロシマの鐘。その周りには悲しみが立ち込めていて、その悲しみを表すためには…

という具合。


彼は広島を訪れたことがあるのでしょうか?


彼がヒロシマ、と発する時は通訳を介さなくても伝わる重みがありました。

私が日本から来たから、イメージを伝えやすくするためにその言葉を選んだのだとは思えなかったのです。


それにしても、チェルノブイリを持つウクライナの音楽家がヒロシマの鐘、という言葉を発すると重みがあります。

私の目の前からは洞窟に隠された財宝や骸骨の山は消え、代わりに昔訪れた平和記念公園の、ブルーグレーの空を鳩が飛ぶ様子が現れました。


熱いものがこみ上げてきたのは本当です。

何とか、この感情をニコライパパのアドバイスによるテクニックのみでなく、心から湧き上がる感情として伝えられるでしょうか?


アパートに戻って、リハーサルの映像を見てみました。


ここだけは、世界で一番心からの音楽ができるんじゃないだろうか。


自分への自信ではなくて、オーケストラ全体のサウンドが本当に痛いほど響くんです。


テクニックを見せたいという気持ちが消え、ここまで無心に音楽との同化を願ったのは初めてです。


ウクライナチェルニーゴフのことももっと知りたい。

帰ったら広島にもまた行かなければ。


ピアノ伴奏でも良いから、広島でこの楽章を演奏する機会を作りたいです。



YukiTAKUBO; Violine