ヴァイオリニスト田久保友妃のブログ「四絃弾き。」

関西を中心に活動中のヴァイオリニスト。「バッハからジャズまで」をテーマとした幅広いレパートリーを活かし、「ヴァイオリン独演会」シリーズを全国各地で展開中。2020年3月セカンドアルバム『MONA LISA』リリース。http://yukitakubo.com/

2019.07.15.【セバスチャンのアイゼナハ案内】チェコ・ドイツ日記⑫

Meine Damen und Herrn!

四絃弾きの旅の道連れ、セバスチャンです。

 

我々は今朝ケーテンからワタクシの生まれた街アイゼナハへやってまいりました。

今はICEという電車が走っていて2時間で着くのですね、オドロキです。

 

四絃弾きはホテルに着くなりロビーの階段の美しさに見惚れておりました。

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ホテルのフロントに「仕事で弾いてる者なので」と言って許可を取って弾いておりました割にはビミョウなクオリティでした。「ケーテンでの2日間の練習不足のせい」と言い訳しておりましたが、ワタクシも階段で聴いているのですからもう少しましな演奏をして欲しいものです。

 

まあ思い出が出来て良かったですね。f:id:yuki-violine:20190716031512j:image

このホテルにはトルストイも泊まったのですよ。

 

 

その後、ワタクシの生家ということになっておりますバッハハウスへ。


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ただいまでございます。


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素敵な庭でしょう。

 

でも実はこの家、ワタクシの親戚は少なくとも住んでおりましたがワタクシが生まれたかどうかは結論が出ていないのです。ワタクシですか、いや300年以上も昔のことは忘れました。ハハハ。アイゼナハで生まれたのは確かです。


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しかし、ライプチヒから持ってきたこの扉は本物でワタクシが毎日通っていた扉です。

 



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ワタクシの像が色々あります。実はどれもあまり似ていません。それを検証するために1894年にはワタクシの頭蓋骨が掘り起こされまして、それから鋳型が作られたときには思わず「何してくれとんねん」と思いました。


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ワタクシの息子。優秀な音楽家がたくさんおりましてね。


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パッパ!

 

ワタクシ(注・ヨハン・セバスチャン・バッハ)の父はアイゼナハの街の音楽長でございまして、その仕事はというと毎朝市庁舎からラッパを吹くことでした。

四絃弾きはそれを聴いて「パズーか!」と突っ込んでおりましたが、何のことやら。


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ここがパッパの職場だった市庁舎。


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市庁舎の向かいにある薬局は1585年、つまりワタクシの生まれる100年前からあるそうです。ということは、ワタクシのパッパなりママなりが、ここでちょっとした薬を買ったかもしれない訳ですね。

と気づいたら四絃弾きはこの薬局で何か買いたくなったらしく閉店間際に飛び込んでおりました。が、dmやマツモトキヨシとは違ってこうした薬局は入店と同時に「Was darfst sein?」とキツめの問いが飛んで来ます。


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咄嗟に「喉が痛いからのど飴くれ」と言ってすごいブルーののど飴を買っていました。のど飴なのに「大事にとっておく」そうです。「ヨハセバちゃんだって子供の時にのどが痛いとかいってここで薬をパッパが買ってきてくれたかもしれんやん」ということです。のどは痛くないそうです。

 

四絃弾きはやたら「~やん」「~せえへんわ」といった訛りの強い言葉を使いますが、郷土愛というものだそうです。(「京都も良いけどコテコテの大阪も慣れたらハマるで!」とのこと。そんな土地の大学で音楽を学んだそうですが、はてさて)

その気持ち、ワタクシも分からないではありません。ワタクシは生まれ育ったアイゼナハ人を死ぬまで自称しておりました。ライプツィヒでは市民権を取得しなかったのです(※バッハハウスに記載あり)

 


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さてバッハハウスではしばし一緒にワタクシの作品を鑑賞しましたが、この椅子は素晴らしい……、日本にもMUJIとかいう店に人間をダメにする椅子とやらがあるようですが、これはまさにドイツ版。f:id:yuki-violine:20190716032116j:image

 


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四絃弾きが寝かけたので、カフェで珈琲を頂くことにしました。ちなみにワタクシも珈琲は大好き。カンタータにもしました。

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これは珈琲豆。それにカンタータと名付けるとは、ワタクシのファンなら思わず買ってしまう上手いネーミングです。

 

入場券には一回ずつ、古楽器のレクチャーコンサートがついて参ります。f:id:yuki-violine:20190716032234j:image

なかなか熱心にワタクシの作品を勉強している青年が、ミニパイプオルガン、スピネット、チェンバロ、足踏みオルガンの4種の鍵盤を弾き比べてくれます。

四絃弾きは「音ちっさ!」と思ったらしいですが、ワタクシはこうした楽器を使って作曲しておりました。

演奏には大変満足しておりました。誠実な上にそれぞれの楽器の特性と制限がよく分かる演奏で、勉強になったそうです。

 



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バッハハウスを出まして、近くのルターハウスに行ってみます。


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聖書をドイツ語に訳したあのマルティン・ルターアイゼナハ時代に寄宿していたコッタ家と一部を増築したもので、15世紀に建てられたコッタ家は窓ガラスが特に興味深いものが使われています。


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ルターにはワタクシも多大な影響を受けまして、ルター&バッハの名義となるカンタータを視聴できるコーナーございます。

なぜかこのショップには「ルターソックス」なる靴下がバリエーション豊富にありまして、これまた何故か「自分用」に買っておりました。謎です。


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♪ ♪ ♪

はい(また寸劇終わり。三人称だと書きやすいのです)。

 

という訳で、久しぶりのドイツ旅行は全てバッハ巡りとしました。

ケーテンは地球の歩き方にすら乗っていない街で、またドイツも久しぶりで不安もありましたが、どちらも訪れて本当に良かったなと思う街でした。

 

何より私の中のバッハ像が完全に変わってしまいました。

10年ほど前に、バッハの聖地ならここでしょう! とばかりライプツィヒをバッハフェストの時期に訪れまして、熱狂の中でバッハのロ短調ミサを鑑賞しました。

そこで見たバッハ像は「音楽の父」「偉大なるバッハ」であったと思います。

が、「事情さえ許せばずっとここに住みたかった」ケーテンという本当に素朴な街、豪奢というよりは自然公園のような宮殿を見て、バッハが大都会の商業都市での成功よりはこのような緑豊かな土地で、お気に入りのスピネット(とても小さい可愛い音の鍵盤楽器です)に向かって作曲を続けたかったのだと感じました。

プラハやブルノでは朝、教会の鐘の音で目を覚ましていましたが、ケーテンでは鳥の鳴き声(さえずりというよりはわめき声といえるくらい)で目を覚ましていました。バッハもそうだったのではないでしょうか。

より、バッハという人の自然への愛着や素朴の生活を垣間見た気がします。

本当に来て良かったです。

 

セバスチャンという道連れもできましたし笑

 

明日はプラハに戻って、その後飛行機で日本へ帰ります。

 

ドイツで遊びすぎてせっかくチェコで上達した腕が鈍りました笑 が、それはそれで大きな収穫でした。

 

YukiTAKUBO; Violine