『白い病』
阿部賢一 訳
- 作者:カレル・チャペック
- 発売日: 2020/09/16
- メディア: 文庫
『白い病』は五十歳前後の人間のみが発症し、皮膚に白い斑点が顕れ、やがては腐食し死に至る架空の伝染病だ。大学病院の医療関係者をして、モルヒネしか与える薬はないとされている。
しかし一人の医師が治療法を発見した。貧しい者には無条件で治療を施すが、金持ちには、しない。彼等には、彼、ガレーン博士の提示する治療法と引き換えにする「たった一つの条件」を動かす力があるからだ。そのために行動しないことには、いくら懇願されようと金を積まれようと、治療はしない。
戦争へ向かう架空の独裁国家を舞台に、この疫病と博士の条件が迎える結末とは。
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デフォーの『新訳 ペスト』然り、昨年から疫病を扱った文学の出版や翻訳が活発になったことは確かだ。
本書はチェコが誇るカレル・チャペックの1937年に出版された戯曲の新訳で、前出の『ペスト』と同じく2020年に出版されたSF。架空の国を舞台背景としている。
『白い病』というこれもまた架空の疫病拡大を主な背景として物語は進行するが、疫病そのものよりも、資本主義と格差社会、高齢化社会と若者の抱く不満、戦争と平和など現代にも通じる社会問題が随所に提起されている。
そして、「群衆」。
ペストでも『白い病』でもコロナでも同じなのが、「群衆心理」というものなのだろう。
最終的に運命を決するのは独裁者の号令や「脅威の疫病の唯一の治療法」という絶対的な力を持つ博士でもなく、「群衆」なのである。
この戯曲を読み終えた時、ふと思い浮かんだ疑問がある。
チャップリンの映画『独裁者』。子供の頃好きだった映画だが、果たしてあのラストは起こり得るのだろうか。
タイトルの中の「病」は疫病そのものではなく、「群衆」という「病」なのかもしれない。
(2021/04/08)
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