ヴァイオリニスト田久保友妃のブログ「四絃弾き。」

関西を中心に活動中のヴァイオリニスト。「バッハからジャズまで」をテーマとした幅広いレパートリーを活かし、「ヴァイオリン独演会」シリーズを全国各地で展開中。2020年3月セカンドアルバム『MONA LISA』リリース。http://yukitakubo.com/

読書日記15 不滅の大作曲家 シュッツ

 

 


『不滅の大作曲家 シュッツ』ロジェ・テラール著 店村新次・浅尾己巳子 訳 1981年、音楽之友社

(Tellart, Rodger. HEINRICH SCHÜTZ. Paris: Editions Seghers. 1968)

 


 ハインリヒ・シュッツ、ときにエンリケ・サギタリウスはヘルマン・シャイン、ザムエル・シャイトと併せて「ドイツ三大S」とも称される、ルネサンス期から初期バロック時代への変換機に輝き、時と共に忘れ去られ、そして前の世紀に再びまた真価を認められた作曲家である。

 


 西洋音楽史の歴史を学ぶと、バッハ達への橋渡しとして名前だけは目にする。そして申し訳ないが「シュッツ、シャイン、シャイト、バッハの先輩になるのは誰だっけ?」的な疑問をテスト前にだけ思い返して名前を確認する(答えはシャイン。1616年ライプツィヒのトーマスカントルとなる)。

 


 私自身、図書館の「不滅の大作曲家」コーナーの中にシュッツの名前を見つけて二度見いや三度見して信じられない思いで手に取ったのである。本書の発行当時、唯一の日本語のシュッツに関する書籍であったらしい(今でもそうかも)。中を見ても、活版印刷の時代の出版にも関わらず、中身のページはきれいなものであった。一体今まで何人が読んだ本だろう。

 


 それはさておき、中身は同シリーズのモンテヴェルディも執筆した、「シュッツの狂信者」とも呼べそうな著者テラールによるものなので、ややシュッツを神格化しすぎな点はある。神格化というよりは、少女漫画のヒロインとでも呼べそうなシュッツになっている。ではあるものの、やはり歴史上知っておいた方がいい人名なら、その生涯まで追ったほうが断然面白い。

 個人的なドイツ音楽の興味がルネサンスとちょっと飛んでバッハの時代だから、この時代のことはあまり詳しくなかったが、急に17世紀ドレスデンの文化や歴史背景が体温を持って目の前に広がり出した。

 このシュッツが、ヴェネツィアの音楽スタイルをドレスデンに持ち込んだ。そしてその後のドイツにおけるイタリアブームが、晩年の選帝侯とのすれ違いのみならず18世紀のイタリア系音楽家と現地の音楽家との確執にまで発展する。

 別の本になるが、篠崎の教本でおなじみヴェラチーニを、バッハが無伴奏ヴァイオリンの奏者として想定していたあの音楽家が窓から突き落としたかも、とかね。そう聞くとちょっと興味をそそられやしませんか。

 個人的には、シュッツが下地を整えた後のドレスデン、アウグスト強王が今面白い。それについては次の読書で。

 


2021/06/03