ヴァイオリニスト田久保友妃のブログ「四絃弾き。」

関西を中心に活動中のヴァイオリニスト。「バッハからジャズまで」をテーマとした幅広いレパートリーを活かし、「ヴァイオリン独演会」シリーズを全国各地で展開中。2020年3月セカンドアルバム『MONA LISA』リリース。http://yukitakubo.com/

読書日記16 マイセン 

 


グリーソン,ジャネット『マイセン 秘法に憑かれた男たち』南條竹則 訳.集英社,2000年。(原作:Gleeson, Janet. THE ARCANUM. 1998. Christopher translation rights)

 


 何年か前に、柿右衛門のコレクターの方からマイセンについての話を伺う機会があった。

 なぜ今でなかったのだろう!

 今なら、その時「磁器をマイセンで作らせた王様がね」と聞いてふんふんと頷いていた、あのアウグスト強王についてあれもこれも聞きたかった。ついでにあの時こちらからはバッハについて色々語らせて頂いたが、今ならアウグスト強王の家庭教師をやっていた音楽家の曲を聴いて頂けたのに。

 過ぎたことを悔やんでも仕方ないので、またお会いできる日にとっておこう。

 


 フィクションのようなノンフィクションの、マイセンにまつわるお話、それが本書の内容である。アウグスト強王の幼少期について(つまり、家庭教師の記述が一行でもあれば良いのだ)伝記を探していて、ハズレだった訳だが冒頭からしてめちゃくちゃ面白くてついハマってしまった。

 


「逃げるしか途はなかった。王との約束を果たせなかったからには、もう命の保証はなかった。」1703年6月21日、21歳の錬金術師ヨハン・フリードリヒ・ベトガーが逃亡者となったところから物語は始まる。

 この冒頭からして惹きつけられたのは、柿右衛門コレクターの方からの予備知識があったから。記号的に知っていたことの全貌が明らかになると、余計面白いことって、ある。

 


 マイセンの磁器を生み出した男は、もとは錬金術師だったのだ。彼は金の錬成には失敗するものの、当時、金に匹敵する価値を持つ磁器を生み出すことに成功する。

 


「創造主なる神は錬金術師を陶工にしたもうた」(75)

 


 磁器の秘密を漏らさないように完成後もずっとマイセンに幽閉されていたと聞いたが、そもそもが錬金術に失敗して王に返すべき出資を返せていないところから端を発していたとも言える訳だ。

 


 アウグスト強王の人生は、数奇な巡り合わせに満ちている。幼少期、強王は兄ヨハン・ゲオルグ4世と共に、のちにかの大バッハに影響を与えたとされるとある音楽家を家庭教師として育つ。兄の死によって即位し、1717年、目の色を変えて陶磁器を蒐集していた強王はプロイセンのフリードリヒ一世の1713年の死去を知るや彼のコレクションの陶磁器の壺など100点と引き換えに竜騎兵600騎を交換として譲渡した。後の1745年、オーストリア継承戦争のケッセルドルフの合戦で、息子フリードリヒ大王の軍勢としてザクセン軍を全滅させることになる竜騎兵を。

 そのフリードリヒ大王といえば、音楽大好き。フルートの名手で、バッハに音楽の捧げ物作曲の機会を作り、ザクセンをボコボコにした時はちょうどバッハの息子カール・フィリップ・エマニュエルがチェンバロ奏者として仕えていた頃だ。

 


 この、点と点が勝手に繋がってくる感じもこの時代のドイツの面白いところ。

 


 多分何かに続く。

 


2021/06/10

読書日記15 不滅の大作曲家 シュッツ

 

 


『不滅の大作曲家 シュッツ』ロジェ・テラール著 店村新次・浅尾己巳子 訳 1981年、音楽之友社

(Tellart, Rodger. HEINRICH SCHÜTZ. Paris: Editions Seghers. 1968)

 


 ハインリヒ・シュッツ、ときにエンリケ・サギタリウスはヘルマン・シャイン、ザムエル・シャイトと併せて「ドイツ三大S」とも称される、ルネサンス期から初期バロック時代への変換機に輝き、時と共に忘れ去られ、そして前の世紀に再びまた真価を認められた作曲家である。

 


 西洋音楽史の歴史を学ぶと、バッハ達への橋渡しとして名前だけは目にする。そして申し訳ないが「シュッツ、シャイン、シャイト、バッハの先輩になるのは誰だっけ?」的な疑問をテスト前にだけ思い返して名前を確認する(答えはシャイン。1616年ライプツィヒのトーマスカントルとなる)。

 


 私自身、図書館の「不滅の大作曲家」コーナーの中にシュッツの名前を見つけて二度見いや三度見して信じられない思いで手に取ったのである。本書の発行当時、唯一の日本語のシュッツに関する書籍であったらしい(今でもそうかも)。中を見ても、活版印刷の時代の出版にも関わらず、中身のページはきれいなものであった。一体今まで何人が読んだ本だろう。

 


 それはさておき、中身は同シリーズのモンテヴェルディも執筆した、「シュッツの狂信者」とも呼べそうな著者テラールによるものなので、ややシュッツを神格化しすぎな点はある。神格化というよりは、少女漫画のヒロインとでも呼べそうなシュッツになっている。ではあるものの、やはり歴史上知っておいた方がいい人名なら、その生涯まで追ったほうが断然面白い。

 個人的なドイツ音楽の興味がルネサンスとちょっと飛んでバッハの時代だから、この時代のことはあまり詳しくなかったが、急に17世紀ドレスデンの文化や歴史背景が体温を持って目の前に広がり出した。

 このシュッツが、ヴェネツィアの音楽スタイルをドレスデンに持ち込んだ。そしてその後のドイツにおけるイタリアブームが、晩年の選帝侯とのすれ違いのみならず18世紀のイタリア系音楽家と現地の音楽家との確執にまで発展する。

 別の本になるが、篠崎の教本でおなじみヴェラチーニを、バッハが無伴奏ヴァイオリンの奏者として想定していたあの音楽家が窓から突き落としたかも、とかね。そう聞くとちょっと興味をそそられやしませんか。

 個人的には、シュッツが下地を整えた後のドレスデン、アウグスト強王が今面白い。それについては次の読書で。

 


2021/06/03