日蝕。
「金髪の現役京大生にして最年少芥川賞受賞」、「三島由紀夫の再来」、当時、一世を風靡した作品だった。
今より娯楽の少ない時代だったから、私の周りでもかなりの浸透力で読まれていた。そして「畢竟」「頗る」「就中(なかんずく)」といった言い回しや「云う」といった漢字遣いが流行した。
といった、個人的な記憶のほうが先に立つ《日蝕》である。内容としては「確か錬金術師が出てきて衆目の前で錬成実験をするのがクライマックスだったやうな」という頗る曖昧な事象しか記憶すること能わず。
だが、先日来アウグスト教王時代のザクセンとマイセン磁器の歴史に熱中しているので、「もしかして《日蝕》はベトガーの話だったかもしれない」と思い立ち再読した。
全然違った。
舞台はそもそも15世紀終盤のフランスで、クライマックスの日蝕が起こるのも錬成実験ではなく魔女狩りの場面だった。
記憶違いも甚しいものの、20年振りの再読というのはなかなか面白い。
オペラにしたら面白いんじゃないかと思う。
2021/06/24