心がガチガチに武装していると感じたら、自伝と併せてお勧め。自伝の方がサクサク読めるけど、アフォリズムは本棚に置いておきたい一冊。文庫化希望。
中本義弘 訳
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成功は、放っておいても雄弁に語るものである。見失ってはならないのは失敗、落胆、疑念である。われわれは過去の困難、数多くの誤った出発点、痛みをともなった試行錯誤を忘れがちである。自分たちの過去の成功を一直線に進んだ結果だとみなし、現在直面している困難を衰退や腐敗の兆候だと考えてしまうのだ。(『人間 157』)
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「格言集」と言ってしまうと、エッセンスというよりは選者の意図により抜粋され、再構成されたようなイメージがあった。が、本書はホッファー本人がアフォリズム集として著作した2冊分と補稿からなる全集らしい。
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厳密な科学用語によってわれわれの精神生活を語ることは、おそらく不可能であろう。科学用語によって、人は笑ったり、憐れんだりできるだろうか。われわれの精神生活を語るためにあるのは、詩かアフォリズムかのいずれかである。後者のほうが、おそらくより明確であろう。(情熱的な精神状態 161)
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ロードムービーのようにめちゃくちゃ面白い自伝とも共通するが、ホッファーの哲学は決して頭でっかちではない。明日のパンのための労働の中で、さまざまな人種と対話して精錬されてきた。
ホッファーはモンテーニュの『エセー』に「どのページにも私がいる」と感じ、傾倒したらしい。
私自身、『魂の錬金術』のどのページにも自分がいる、と感じた(私が考えていたことそのもの、という訳ではなく、「私の心を全て見透かされたようだった」という意味だ)。自分自身の心の鎧が最初は一枚一枚引っ剥がされていって不安になるが、段々と身軽になっていき、最後にはいくらか思考が柔軟になっていくような感じがしたのだ。
ここに収められたアフォリズムの数々は、一つだけ抜き出してみると、冷徹であったり、厳しいようにも取れるものがある。
私自身、ものすごく腑に落ちるあまりに、自分の行動の原理を見抜かれたようで驚くと同時にショックを受けたものも多い。
それでも読み進めると、一見、先に述べたことと真逆のようにも取れるアフォリズムが出てくる。これは決して矛盾ではない。
ホッファー自身が自伝で「私は概して堕落しやすく、そうであるからこそ誘惑を避けることを学ばねばならなかった」と書いたように、精神の奥底を覗いたところがスタート地点なのだ。
自分自身に騙されず、自分の行動を考える力。
そのヒントを得るために、折に触れて読み返したい一冊になった(だから、最初は図書館で借りて後にすぐ出版社から直接購入した)。
(2021/03/22-04/04)
田久保友妃
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