ヴァイオリニスト田久保友妃のブログ「四絃弾き。」

関西を中心に活動中のヴァイオリニスト。「バッハからジャズまで」をテーマとした幅広いレパートリーを活かし、「ヴァイオリン独演会」シリーズを全国各地で展開中。2020年3月セカンドアルバム『MONA LISA』リリース。http://yukitakubo.com/

読書日記19『バッハ』

 

 




 バッハの伝記は今年に入って何冊目だろうか。(シュッツとはえらい違いである)
 研究され尽くされた上で更に研究されつつある作曲家だけあって、大方の生涯にさほど違いはない。
 だからこそ、それぞれの伝記のちょっとした差異こそが面白い。例えば今や、『アンナ・マグダレーナ・バッハの回想録』をバッハの生涯の参考文献として引用する研究者はないだろうが、この少女漫画的なロマンスに満ちたバッハ家の描写にいくらかの現実味が感じ取れるところなど。
 本書の面白さは、豊富な図版と各時代ごとの雇い主や同僚の紹介によって、いかにも活き活きとした生身の人間、バッハの目にした光景に思いを馳せられることだろうか。作品紹介は少ないが、各時代の主要作品の作曲同期や背景が簡潔に挿入されている。
 個人的には、ザクセン=ワイマール公ヴィルヘルム・エルンスト公の客観的な人となりが新鮮で面白かった。何と言ってもバッハを牢屋に放り込んだことばかりが取り上げられる人物だから。こういう人となりが知れると、「ドレスデンのヨハン・ゲオルク2世よりは趣味の合いそうな人物じゃないか」などと想像を膨らませたりもできる。

 本書には2人のチェリストがエッセイを寄せているが、それぞれ「学生時代にバッハの無伴奏全六曲に繰り返し何度も取り組んだ」とのこと。
  
 学生時代どころか、全6曲でいえばつい最近やっと譜読みを終えた曲もあるし、あのパルティータなんか久しく弾いていないなぁという曲もあってぎくっとするのだが、まずは毎日。

(2021/06/30)